ジョブをこなす起業家と、ビジネスを生み出す起業家
シリコンバレーで起業家というと、ハイテクやバイオの世界で画期的な製品やサービスを引っさげ、ベンチャーから投資をうけてビジネスをスタートする事をイメージしますが、起業家(entrepreneur)という言葉自体にはもう少し地味な起業も含まれます。
私は、SVJEN(シリコンバレー日本人起業家ネットワーク)という団体と、SVEC(シリコンバレー起業家クラブ)という二つのEntreprenurと名の付く団体に所属しています。この二つのグループでは、名前が似ているだけで、「起業」という言葉の意味合いが大きく違うようにおもいます。メンバーもどちらかというと前者が前述したような派手な起業家の集まりであるのに対して、後者は主に地元スモールビジネスの団体です。
SVECは商工会議所などには属しておらず、仲間同士で自発的にできた団体で現在約42人のメンバーが隔週の朝7時半に集まっています。日系団体ではなく、メンバーも多国籍ですが日本人メンバーは今の所、私だけです。メンバーのビジネスは、会計士、コスチュームショップオーナ、ハンディマン、家具屋、不動産屋、印刷屋、ミュージシャン、絵本作家などなど、スモールビジネス、個人事業主が中心です。
私は自分を含めてこれらの個人事業主を起業家と呼ぶことに抵抗を感じます。entrepreneurを辞書でひくと、
【noun】a person who organizes and operates a business or businesses, taking on greater than normal financial risks in order to do so.とあります。リスクを取ってビジネスを組織し運営する個人が起業家というわけですが、個人事業主が運営しているのは「ビジネス」では無いと思うからです。
脱サラ起業家のバイブルとして有名な、Michael GerberのThe E-Myth Revisited: Why Most Small Businesses Don't Work and What to Do About Itという本があります。この中で、Gerberが「なぜ(ほぼ)全てのスモールビジネスの起業は失敗するか」の理由として、
「ある技術に優れている者が、その技術を売り物にする商売にも優れているという致命的な誤解」
からビジネスを始めてしまうケースが多いからだと書いています。会社でどんなに上手に仕事をこなしても、それはあくまで仕事(ジョブ)であって、商売(ビジネス)では無いという事です。このような人は、起業しても今まで与えられていたジョブを自分で取ってくるようになるだけで、結局ジョブをこなしているだけでビジネスは生み出していません。したがって、自分の時間と能力が許す狭い範囲の中でしかスケールすることができず、独立開業する前より周辺雑務をこなさなければいけない分、忙しくなる割には対して儲からないというケースが多く、結局耐えきれず長続きしません。
E-Mythの中でも、アメリカで毎年起業されるビジネスのうち、
一年以内に潰れるのが4割、5年後には8割がつぶれ、残る20%も次の5年で無くなる
と書かれていますが、このグループで周りの人をみているとあながち大げさではない、どころか2割も5年間残っていたらいいほうとすら思えます。
ジョブこなし型のビジネスで長続きするのは、医者や弁護士のような特殊な技術を持っているケースですが、それでも時間単価がある程度他の職種より高いだけで自分の時間を切り売りしていることには何ら代わりがなく、ビジネスとは言えません。前述の本によれば、独立開業した商売がジョブではなくビジネスであるためには、
・存続のための日常業務に自分が不要で
・スケーラブルで
・自分だけでなく従業員等、他人にも設けさせる仕組み
・マニュアル化してフランチャイズが可能なビジネスモデル
でなければなりません。
会計士さんが一人でいくら頑張って時間単価を上げ、勤務時間を増やしも収入を2倍にすることはできても、自分ひとりでは10倍にすることはできません。10倍にしようと思ったら、他人を雇用し従業員に効率よく働かせる仕組みを創り上げる必要があります。ということは、ある技術、能力に優れている人が自分の技術、能力を元にスタートした時点でビジネスには成り得無い、または大きな方向転換が必要になるわけです。
ビジネスを成功させるには、マネージャー、起業家、技術者の3つの人格が必要と言います。一人で始めたビジネスを成功させるには、この三つの人格がそれぞれ人より優れていて、かつバランスが良いことが大事です。そんな人なかなかいませんよね。だから、起業して成功を得る人も少ないのです。
以前、日本人起業家ネットワークのほうで、地元のレストランオーナーを起業家としてセミナーに呼ぼうと提案したところ、レストランオーナーは起業家ではないと反対されたことがあります。皮肉にも、いまシリコンバレーで元気な日系ビジネスはレストラン業ではないでしょうか。レストランのオーナーシェフも1店目までは、ジョブの延長とも言えますが、投資を集め、店舗や有能なシェフを買収し、次々と二店目、三店目をオープンしてゆけばこればこれは既にビジネスです。私のように独立開業したものの、日夜ジョブに追われあくせくしている自称起業家さんより、よっぽど立派な起業家です。


5月のDigital Retailing Expoで
こちらでは、新居に移ると友人知人を招待して「ハウスウォーミングパーティ」というのをやったりします。 内容は引っ越し祝いパーティなんですが、この「House Warming」という呼び方が集まってくれたお客さんによって House が温かみのある Home になるようなイメージがあって好きです。